コンパートメントにお互い横になり、母親はパスポートと現金の入ったポーチを枕に居眠り、二十歳の娘は座席の下の足元に貴重品を入れたリュックを置き、これまた居眠り。

私はこの人達の前を通る度に「リユックは身体の側に置いてくださいよ。盗られるよ」とリュックを横たわる本人に持たせたが、彼女は横になりながら、うっとうしげな顔をしてこう吐き捨てる

「そんな事あらへんて!気にしすぎやわ!アマグリさん」

ところがである。その後一時間もしない内に、先程の親子がけたたましく泣き声をあげて私のいるコンパートメントにやって来てこう言った

「アマグリさんの言った通りや!みんな盗られてしもたわ~!!」