実は、その親子とローマで別れる前日の真夜中、私達にはもっと恐ろしい事が待ち受ていた。

パスポートと現金、帰りの航空券、カメラと時計すべての貴重品を泥棒に持ち去られた母娘は言葉も無くうなだれた様子で私達と一緒にコンパートメントに座っていた。
急行列車には三人の警官が乗り込み私達のコンパートメントの隣の部屋で警戒していてくれた。

安心はするものの私達は、すべての荷物を入り口のドアに積み上げ、誰も入ってこれぬように天井近くの鍵もかけ、六人掛けの席にスクラムを組んで座り夜を過ごそうとした。
一時間ほど室内の灯りを灯した後、それを消して眠りに付こうとした、その瞬間である。